今、車の「作り方」に変革が起きていることをご存知だろうか?
ホンハイ、EV試作車を公開
EMS(電子製品受託製造)世界最大手のホンハイが、自動車業界参入に向けて3つのモデルの試作車を公開!2022年にも発売し、公道を走ることになる。
ホンハイはスマートフォンや薄型テレビなどの電子機器を受託生産するEMS企業の世界最大手であり、シャープなども子会社にもつ台湾に本社を持つ企業
iPhoneの製造で一躍世界に名を馳せた巨人ホンハイの自動車産業への参入。
しかし、ユニークなのは参入そのものではなく車の『作り方』にある。
ホンハイが仕掛けるのは『水平分業型』と呼ばれるやり方である。
アップルや、日本の任天堂、キーエンスなどの企業は『水平分業型』の経営スタイルで世界戦を戦っている。
流れはこうだ!
顧客=企画・販売
ホンハイ=設計・生産
ホンハイは車(EV車)を作りはするが、他社のブランドで販売する。
これはまさにiPhoneの製造で培った生産モデルになる。
ホンハイ流の車作り(EV車)は成功するのか?
考察ポイントや背景を見ていこう!
目次
-
1 車作りの基本
-
2 なぜ今、水平分業なのか?
1・車作りの基本
ホンハイが仕掛ける「車作り」は「スマホ流」とも言えるが、その前にまずは従来の車作りを見ていこう。
車作りの基本は「垂直統合型」
自動車メーカーを頂点に『ケイレツ』と呼ばれる、ピラミッド構造の中で完結していた。
トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スズキなど各社が頂点にいて、その傘下に部品メーカー『ケイレツ』会社が多数いる。
キーワードは『ケイレツ』
自動車メーカーと部品メーカーとの結びつき。1次下請け、2時下請けなどと区分され、3次、4次は家族経営の町工場という場合もある。
自動車メーカーが生産性アップの指導を行なったり役員を派遣するケースなどもある。
次に車ができるまでの流れを見ていこう!
①自動車メーカーが「新しい車のコンセプト」を企画し決定
②設計や寸法を決定し、図面に落とし込んでゆく
③部品の生産を「ケイレツ」に発注する
④部品を製造し納品する
⑤部品をすり合わせて車を完成
⑥車を販売
かなりざっくりとした感じだが、おおむねこんな流れで製造から販売までが動いている。
近年は部品メーカーから、新しい機能の提案が行われるなどの例も出ている様だが基本的には垂直統合のもの作りは変わっていない。
ではなぜ車はこのように作られるのだろうか?
そこには『ケイレツ』ならではの強みがある。
強み① 「超精密」なすりあわせ
車は約3万点もの部品を組み上げることで完成する。特に内燃機関であるエンジンは部品数が1万点を超える
一方でわずかなズレが安全に直結する。
品質を安定させたり、車の安全性を高めるためには受注する部品メーカーとの関係は「近い」方が好ましい。
強み② 下請けの安定
3次、4次下請けになると家族経営の町工場も多く、必ずしも経営体質は強くない。
大手の自動車メーカーの「ケイレツ」に組み込まれることで、まとまった発注が見込め生産性向上などのサポートが受けられるのは大きな魅力の一つ。
強み③ コストダウン
部品メーカーが鋼材などの原材料を仕入れる際、単体だと単価交渉力が乏しい。「ケイレツ」のトップに立つ自動車メーカーが原材料を一括して購入する「共同購買」を実施
価格交渉力の低い、中小の部品メーカーも原材料価格高騰の影響を受けにくく、安く調達できるためにWinーWinの関係になる。
(スケールメリットを最大限に利用したコストダウンは大手企業の得意技ですね。その恩恵は中小企業にとって絶大なメリットだと思います)
こうした背景から、自動車メーカーは部品メーカーとの結びつきを強め、手に手を取り合う形で自動車を作り上げている。
2・なぜ今、水平分業なのか?
車作りに最適な方法として根付いた「ケイレツ」による垂直統合
しかし今、全く違う発想の車作りが現れている。
しかも、車作りとは違う異文化のメーカーが続々と姿を現した。
それが、水平分業モデルである。
企画・販売と設計・生産を分離してお互いの強みを最大限に生かすやり方である。
・企業Aが①車のコンセプトを企画
・企業Bが②コンセプトを設計し落とし込む
・企業Cが設計を基に車を生産する
・企業Aが自社ブランドとして販売する
水平分業は、エレクトロニクスや家電メーカーの発想で既にスマホや家電では主流になっている。
そして、EMS(電子部品受託製造)世界最大手のホンハイは、自動車業界への参入を決断し、水平分業を車の世界に持ち込む!
キーポイント
鴻海科技術集団(ホンハイ)
業種 EMS(電子部品受託製造)
創業者 郭台銘(テリー・ゴウ)
売上 19兆5000億円(2020年度)
時価総額 5兆8300億円
中核会社がEMSの鴻海精密工業(フォックスコン)アップルのiPhoneをはじめ、Amazonのキンドルやノキアの携帯電話などを手掛け『世界の工場』と呼ばれている
iPhoneの組み立てを一手に担い、売上高は20兆円に迫る勢いのホンハイだが、iPhoneの生産受託は決して「稼げる」ビジネスではなかった。
そこで、「稼げる」ビジネスとして今、世界的な流れが出来つつあるEVに参戦する
しかし、なぜ今まで出てこなかった水平分業モデルが今になって可能になったのか?
その背景にあるのが「EVシフト」である
車の心臓部であるエンジンが、EVではモーターやバッテリーに変わったことで変化の条件が整い一気に流れが変わったのである。
ホンハイ以外にもこうした流れは出ている。
ソニーが企画し、マグナが生産
カナダのメガサプライヤー『マグナ・インターナショナル』の傘下企業
部品メーカーとして世界第4位の『メガ・サプライヤー』
2020年にソニーのオリジナルEV『VISION』の試作車の生産を担当した
では、これからのEV時代には、既存の垂直統合の大手自動車メーカーは時代遅れになってしまうのだろうか?
現時点では、『No』である。
既存の自動車メーカーもただ傍観していた訳ではない。
しっかりと市場の流れを分析して、仕掛けるタイミングを考えていた。
そして垂直統合型で魅力的なEVの開発に乗り出している。
「乗り味は諦めない」
2030年に年間350万台のEV販売を目標に上げるトヨタ
垂直統合の象徴とも言えるプレイヤーが、EV開発でも徹底的な垂直統合で『トヨタならでは』のEVづくりを目指す。
まさに、群雄割拠の戦国時代に突入した自動車産業で日本のメーカーがどう戦っていくのか、これからも目が離せない!