自らが危機意識を持ってこれから起こる惨状から脱却せよ!
前回『高給取りの正体』の記事で、日本の会社員の給与は10年間ほとんど上がっていないと書かせていただきました。
そこで考えたいのは、『なぜそのような状態になったのか?』原因はさまざまありますが、一つの大きな要因として『安売り戦略』をとったことがあげられます。
今回は、なぜ日本は『安売り戦略』をとることになってしまったのか?
このテーマで考察してみたいと思います。よろしければどうぞお付き合いください。
目次
1・中国の台頭
2・日本の戦略
3・他国の技術の高度化
4・危機意識の欠如
1・中国の台頭
1980年頃から始まった中国は1990年台に入り本格化した。
その中国の工業化に対処するために、日本は『安売り戦略』を志向し、円を著しく減価(値打ちが下がること)させた。
その結果、輸出は増えたが貿易収支は悪化した。また、それに伴い賃金も上昇せず企業も成長しなかった。これが失われた20年と呼ばれる期間で有るが、そうせざるを得なかったこともまた理由が有るがここでは、詳しくは説明しない。
日本と比べて、韓国や台湾は、通貨を増価(値打ちが上がること)させた結果、貿易黒字が拡大した。それにより経済成長率が高まり賃金が上昇し、企業も成長することとなった。
中国工業化への対応:「安売り」か「差別化」か?
今は、韓国や台湾の賃金や1人あたりGDP(一定期間内に国内で生み出されたモノやサービスの付加価値のこと)が、日本に近づき、あるいは日本を追い越そうとしている。
20年以上にわたる日本経済の停滞と、韓国、台湾の顕著な経済成長がこのような結果をもたらすことになった。
では、なぜこのようなことが生じたのか?
それは中国の工業化への対処の違いによるものと考えられる。
1990年台に本格化した中国の工業化は、安い労働力を使って、それまで先進国の製造業が作っていた製品を、はるかに安い価格で作り輸出を増大させた。
こらにより、先進国の製造業は極めて甚大な打撃を受けた。
この時に、中国の工業化に対応するのには2つの方策があった。
まず一つ目は、輸出品の価格を切り下げて、中国の低価格製品に対抗すること、これを『安売り戦略』と呼ぶことにしよう。
二つ目は、中国が作れないもの、あるいは中国製品より品質が高いものを輸出すること、これを『差別化戦略』と呼ぼう。
2・日本は『安売り戦略』を選んだ
日本は、2000年以降『安売り戦略』をとった。
国内の賃金を円ベースで固定(これにより賃金上昇は止まる)し、かつ円安(値打ちを下げる)にする。これによって、ドル表示での輸出価格(対ドルで円の値打ちが下がる)を低下させて、輸出を増大させようとした。
十分に円安にすれば、輸出が増えるだけでなく、企業の利益も増やすことができる。
『ボリュームゾーン』(一番売れる価格帯)と呼ばれた政策は『安売り戦略』の典型で有り、新興国の中間層を対象に、安価な製品を大量に販売しようとするものである。
この考えは、1996年の『ものづくり白書』で取り上げられた。そして2000年ごろから円安政策が始まり、1990年前半まで続いていた賃金上昇が頭打ちになった。
3・韓国と台湾は、技術を高度化させた(差別化の戦略)
日本が『安売り戦略』をとっている間に、韓国と台湾では国内の賃金が上昇していた。
これは、少なくとも結果的に言えば『差別化戦略』が取られていたことを意味する。品質を上昇させ、あるいは中国が生産できないものを輸出する、新しいビジネスモデルを開発していった。
有名な例では、日本のシャープを子会社化した、鴻海(ホンファイ)が、中国の安い賃金を活用して、電子部品の組み立てを行うビジネスモデルを開発した。またTSMC(台湾積体電路製造)は、最先端の半導体製造技術を切り拓いた。
以上の政策の違いが、どのような結果になったか?
日本では、2000以降から輸出は増えた、しかし輸入額も増大した。
輸出品の中には、原油など価格弾力性(価格の変動による製品の需要や供給が変化する度合い)の低いものがある。これらは輸入価格が上昇しても(日本は資源のほとんどを輸入に頼っているので、他国が資源(原油など)を値上げしても買わざるをえない)輸入量を減らすことができないため、通貨が安くなれば輸入額がさらに増える。
このため、貿易黒字は減少する。原油価格高騰期は特にこの傾向が高い。
日本では、サービス収支が恒常的に赤字なので、貿易サービス収支が悪化する。
これを所得収支で賄う形になっている。
これは、わかりやすく言うと、退職した人と同じで、働いて給与を得られないので、これまで貯蓄した財産の収益(年金や投資のよる収入)で生活を支えている状態。
4・危機意識の欠如
韓国、台湾では輸出の増加が、輸入増加を超えているので貿易収支の黒字が拡大した。
この差は、韓国、台湾の企業の成長を見ればよくわかる
日本と、韓国、台湾のトップ企業時価総額の増加に現れている
ここ10年で3倍に成長
ここ10年でトヨタの2倍に成長
台湾の時価総額1位 TSMC(台湾積体電路製造)(71兆円)
ここ2年でトヨタの2倍に成長
このように、韓国や台湾では巨大時価総額企業が登場している。
こららはいずれも、日本の時価総額トップのトヨタ自動車の2倍近い。
政策の差がすべてではないが、ここ20年で顕著に結果に差が出てしまってことは否定できない。
通貨安による危機意識の差
1990年台末にアジアの通貨危機(1997年7月タイを中心に始まった。アジア各国の急激な通貨下落(減価)東アジア、東南アジアに大きな影響を及ぼした)が起こった。
もちろん、日本にも影響はあったが日本は先進国で国力もあったのでこの時は、アジア各国の経済復興のための支援に回った。
この時、韓国はウォンの暴落で国が破綻する瀬戸際まで追い詰められている。
この時の、経験が民俗的な記憶となって、通貨政策に反映されている。
これに対して日本では、このような経験がない。
しかし、それが今まで見たきたような『亡国の円安』の進行を許す結果に繋がっている。