登山 行蔵の雑談日記

山登りが趣味のおじさんです。自分が好きな事、気になった事を雑記でつぶやいています。

【実録】SFが未来を変える!『攻殻機動隊』に導かれたこととは?

平成の不況に生まれた傑作

 

100年以上の歴史があるSFの系譜の中で、日本人研究者や起業家の間でバイブルと呼ばれる伝説的な作品がある。

 

1989年にオリジナル漫画の連載がスタートして以来、現在までシリーズが世に出続けている日本のSF作品の金字塔。

 

特に工学者の間では必読書として読み継がれ、作品に触発された研究が次々に花開きつつある。

 

なぜ、『攻殻機動隊』は(以下 攻殻)は人の想像力を刺激するのだろうか?この作品に多大な影響を受けた研究者、起業家、評論家の記事を元に、その秘密に迫ったみたい。

 

攻殻機動隊シリーズ 作品紹介

 

1989年に「ヤングマガジン海賊版」で士郎正宗氏の漫画連載がスタート。

1995年に劇場用アニメ映画化され、以降アニメや小説、ハリウッド映画でのリメイクなど、幅広く展開しているSF作品。

 

科学技術が飛躍的に高度化した21世紀の日本を舞台に、主人公の草薙素子が所属する「公安9課」の活動を描いた物語。

 

電脳化技術や、サイボーグ技術など実現していない未来の技術が多く登場する。

 

シリーズの中でも特に評価が高く一般的に知られているのが、1989年に連載を開始した士郎正宗氏による漫画と、1995年に公開された押井守監督の映画「GHOST  IN  THE  SHELL / 攻殻機動隊」である。

 

攻殻」ファンの工学者や技術者では、この2つの作品に影響を受けたと語る人が多い。

 

両作品が誕生した80年代終わりから90年代の日本は、バブル崩壊からの平成不況にあり、ITバブル前夜、という経済的な谷間の時代だった。

 

攻殻機動隊論」の著者である、文芸評論家の藤田直哉氏は、次のような指摘をしている。

 

「人間が集団として未来を考える時は、大きな変動が起きた時です。(小松左京氏のSF小説の傑作)『日本沈没』が生まれた時代は、大阪万博があり、敗戦から日本をどう発展させるか、集団で考え始めるタイミングでした。その意味では「攻殻機動隊」が生まれた時代背景は共通しています。

特に押井守監督の映画が公開された1995年は、インターネット元年でもありました」

 

攻殻」には、2010年代になって一般名詞になった人工知能VR技術などが、社会に溶け込んだ形で登場している。テクノロジーの進化がもたらす生命倫理の新たな課題や社会の価値観、宗教観の変化といった大きなテーマも提起されている。

   目次

 

VR技術の開発

VR(バーチャル・リアリティ)というのは、人工的な感覚情報を与えることによって、サイバー世界の中に人間が入り込むことのできる技術で、VRのあるべき方向性を示したのが「攻殻」と言える。

 

攻殻」では、脳に直接電気刺激を与えて知覚を引き起こす技術のほか、作中で「義体」と呼ばれるサイボーグ技術など、当時重要とされていた研究テーマが盛り込まれている。

 

背景が透けて見える技術

作中で、「光学迷彩」と呼ばれる技術が出てくる、草薙素子やそのチームの仲間たちが透明になり姿が見えなくなるシーンが多く登場する。

 

東京大学先端技術研究センターの稲見昌彦教授は、「攻殻」に出てくる「光学迷彩」技術から着想を得て再帰性反射材とプロジェクターを組み合わせて、背景が透けて見える技術を開発したことで知られている。

 

稲見教授が作った「背景が透けて見える服」の動画は、YouTubeを通して世界中に拡散し、2003年には米TIME誌の「Coolest  Invention  of  the  Year」に選出され、国際的に認識されるようになった。

 

サイボーグ技術の開発

攻殻機動隊」では、サイボーグの存在する世界が高いリアリティで描かれている。

 

人工臓器を研究をしている横浜市立大学の小島伸彦准教授は、肝臓のアルコール代謝機能に絞ったミニュチア人口肝臓を2016年に開催された「攻殻機動隊 REALIZE  PROJECT  THE AWARD」に出展し、「最優秀攻殻コンテスト賞」を獲得した。

 

現在は、手術の必要なく簡単に肝臓機能の一部を高められる「液体肝臓」を開発中だ。

赤血球にアルコールの代謝酵素を入れて運ばせる画期的な方法で、現在、臨床試験を進める。

実現すれば、移植手術ではなく、輸血によってアルコールの代謝機能を高めることができる。

 

小島准教授は、高校時代に「攻殻」のオリジナル漫画を読み、作中に描かれたサイボーグの作り方に着想を得たのをきっかけに、人工肝臓の研究の道に進んだ。

 

技術の普及に必要な技術以外のもの

「生体信号の解析」と「ロボットの制御」で独自技術を持つベンチャー企業メルティンMMIは、CEOの粕谷昌宏氏が、電気通信大学大学院在学中に立ち上げた大学発のベンチャー企業だ。

 

同社は創業時から、サイボーグ技術の社会への実装を掲げている。

 

なぜ、サイボーグ技術を企業のビジョンの中心に掲げるのか。そのきっかけを作ったのも「攻殻」であった。

 

CEOの粕谷氏が、中学生の時に劇場用アニメ映画「イノセンス」から「攻殻シリーズ」を知り、自分の興味の中心がサイボーグ技術にあることを認識したのが始まりだったという。

 

粕谷氏が、「攻殻」で感銘を受けたのは、技術的な面だけでなく、法律の整備や、倫理的な問題など、テクノロジーの周辺にある社会的なテーマも盛り込まれていることだった。

 

「自分は技術系の人間なので、それまで機能的なことばかりを考えていたのですが、「攻殻」で出会って、サイボーグ技術を実現するにあたってどのような環境整備をしなくてはならないのかが明確になりました」

 

サイボーグ技術がどのようにして未来の社会で受容されうるかは、現在ではなかなか想像しにくい。

 

粕谷氏は、2020年に「国際サイボーグ倫理委員会」を立ち上げ、経産省や研究者、関連技術を開発している企業の参画を募り、「サイボーグ」の定義とは何か、から整理を始めた。

 

「サイボーグという言葉は、誰もが知っているけれど定義が明確になっていない言葉でした。2020年ごろは特に言葉の使われ方がカオスで、美容整形した人までサイボーグと呼ばれていたので、整理する必要性を感じました」

 

粕谷氏は国際標準化機構(ISO)でも、サイボーグをはじめとする先端技術の社会実装に向けた議論を呼びかけている。

 

なぜバイブルになったのか

約30年前に誕生した「攻殻」は、技術面と、日本人の社会システム両方の深い理解の上で描かれているからこそ、多くの人の心を捉え、インスピレーションを与えた。

 

研究者や起業家が、数年先の未来ではなく、数十年先の未来に向けて、何をしていくべきか。それを導くことができるストーリーのリアルさが、30年以上もの間、「攻殻」をバイブルたらしめる秘密と言えるだろう。

 

コロナ禍によって社会のあり方が劇的に変化し、未来が見通しにくくなった現在の状況は、「攻殻」が生まれた時代とどこかよく似ている。

 

次のバイブルは、もうまもなく登場するのかもしれない。

 

ではまた。 See  you  next  time ・・・

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